「歯ぎしりの癖があるんですが、マウスピース矯正って大丈夫でしょうか……?」。12年間のカウンセリングで、最も多く受ける相談の一つです。特に、夜中に自覚なく歯ぎしりをしていると指摘された方が、矯正を始める前に不安で検索しているケースがほとんどです。
結論から正直に言います。歯ぎしりがあってもマウスピース矯正は可能です。ただし「軽度か重度か」によって注意点が大きく変わります。そして実は、矯正用マウスピースが歯ぎしりから歯を守るナイトガードの代わりになるという逆説的なメリットも存在します。
この記事では、歯ぎしりとマウスピース矯正の関係を「影響・リスク・対処法・逆転の活用法」の4つの角度から、正直にお伝えします。
歯ぎしり・食いしばりとはどんな状態か
まず基本的な整理をします。「歯ぎしり」と「食いしばり」は混同されがちですが、厳密には異なります。
| 種類 | 動き | 音 | 主な発生タイミング |
|---|---|---|---|
| グラインディング(歯ぎしり) | 上下の歯を強くこすり合わせる | ギリギリ・ガリガリと出る | 主に睡眠中 |
| クレンチング(食いしばり) | 歯をギュッと噛みしめる | 音が出ないことが多い | 睡眠中・日中のストレス時 |
| タッピング | 上下の歯をカチカチさせる | カチカチと出ることも | 睡眠中 |
通常、物を噛む力は体重程度(50〜70kg)ですが、就寝中の歯ぎしりでは100kg以上、重度の場合は500kg〜1トンの力がかかるとも言われます。この力がマウスピース矯正の装置にどのような影響を与えるかが、本記事の核心です。
歯ぎしりがマウスピース矯正に与える4つの影響
①マウスピースの変形・破損リスク
矯正用マウスピースは歯にフィットする薄い素材で作られています。この薄さが「目立たない・話しやすい」というメリットを生む一方で、就寝中の強い歯ぎしりの力には本来耐えられる設計ではありません。重度の歯ぎしりが続くと、マウスピースにひびが入ったり穴があいたりする可能性があります。
ただしインビザラインの場合、「スマートトラック」と呼ばれる最新素材は耐久性が大幅に向上しており、以前の素材と比べて破損しにくくなっています。また、インビザラインのように約1週間で交換するシステムでは、破損による治療への影響が限定的という見方もあります。
②想定外の矯正力がかかり歯の移動がズレる可能性
マウスピース矯正は、精密に設計された力を特定の方向に特定の量だけかけることで、歯を計画通りに動かしていく治療です。歯ぎしりによって想定外の強い力が加わると、計画とは異なる方向に歯が動いてしまい、次のステージのマウスピースが合わなくなる「フィット不良」が起こることがあります。
③顎関節への負担増加
矯正中は噛み合わせが少しずつ変化します。この変化と歯ぎしりの力が重なると、顎関節に通常より大きな負荷がかかります。治療初期に一時的に顎の不快感や痛みが増すことがあります。また、矯正治療中は歯が動く過程で噛み合わせが一時的に不安定になるため、そのストレスが歯ぎしりを誘発・増加させることも報告されています。
④治療期間の延長と追加費用のリスク
マウスピースの破損・変形が発生した場合、再製作が必要になります。再製作期間中は治療が止まり、治療期間が延びる可能性があります。また、再製作には追加費用がかかる場合があります(クリニックによって異なります)。
歯ぎしりの「軽度・重度」でどう変わるか
歯ぎしりがあっても矯正できるかどうかは、その程度によって大きく変わります。
| 程度 | マウスピース矯正の可否 | 推奨対応 |
|---|---|---|
| 軽度(習慣化していない・力が弱い) | ✅ 可能なことが多い | カウンセリングで申告。通常通り進められることが多い |
| 中程度(日常的だが破損歴なし) | ⚠️ 条件付きで可能 | ナイトガード(歯ぎしり用マウスピース)の併用を検討 |
| 重度(歯が大きくすり減っている・過去に破折あり) | ❌ 難しい場合あり | 先に歯ぎしり治療(ナイトガード・ボトックス)を行ってから矯正を検討 |
重要なのは「歯ぎしりがある=マウスピース矯正NG」ではなく、程度に応じた対処法を取れば矯正を進められる可能性が高いということです。
逆転の視点:矯正用マウスピースが歯ぎしり対策にもなる
ここが競合記事のほぼどれも触れていない重要なポイントです。
矯正用マウスピースは睡眠中も装着し続けます。このとき、マウスピースが上下の歯の間に入ることで、歯同士が直接ぶつかることを防ぎます。つまり、矯正用マウスピースは歯ぎしり用のナイトガードとしての機能も同時に果たしているのです。
軽度〜中程度の歯ぎしりであれば、矯正を始めることで歯がすり減るリスクが同時に軽減されるという「一石二鳥」の効果が期待できます。歯ぎしりがある方が矯正を迷っているなら、むしろ積極的に矯正を検討する動機になりえます。
ただし重要な注意点があります。矯正用マウスピースはナイトガードより薄く繊細なため、重度の歯ぎしりには耐えられない場合があります。また、矯正用マウスピースは「歯を守る」と同時に「歯を動かす」という役割があるため、ナイトガードとは素材も設計も異なります。重度の方は矯正用マウスピースとは別にナイトガードを併用するアプローチが推奨されます。
歯ぎしりがある人がマウスピース矯正を始めるための5つの対策
①カウンセリングで必ず申告する
最も重要なことです。歯ぎしりの有無・程度・いつから始まったかを最初のカウンセリングで正確に伝えてください。歯科医師が治療計画や装置の選定を工夫し、リスクを最小化するための提案をしてくれます。黙って始めると、後から問題が起きたときの対処が遅れます。
②必要に応じてナイトガードを併用する
中程度以上の歯ぎしりがある場合、矯正用マウスピースとは別に、歯ぎしり専用のナイトガードを就寝時に使用することをクリニックから提案されることがあります。ナイトガードは歯科医院で保険適用で作製でき(費用の目安は約5,000円・3割負担)、矯正用マウスピースより厚く耐久性が高い素材で作られています。
③ストレス管理を意識する
歯ぎしりの主な原因はストレスです。矯正治療中は特に治療初期に噛み合わせの違和感から歯ぎしりが一時的に増えることがあります。睡眠の質を高める・日中の食いしばりに気づいたら意識して歯を離す・定期的に体を動かすなど、ストレス管理を意識してください。
④マウスピースの異変に早めに気づいて連絡する
マウスピースにひびが入った・穴があいた・フィット感が急に変わったと感じたら、すぐに担当クリニックに連絡してください。軽微な破損であれば1ステージ前のマウスピースを使用しながら次回診察を待つことで対応できる場合があります。自己判断で接着剤を使って修理したり、そのまま使い続けることは絶対にやめてください。
⑤重度の場合はボトックス(ボツリヌストキシン)注射を検討する
重度の歯ぎしりに対して、咬筋(こうきん:顎の筋肉)にボトックス注射を行い筋肉の過剰な緊張を緩和する治療法があります。矯正を始める前または矯正中に歯ぎしりを軽減する手段として、矯正歯科専門医が提案することがあります。効果は3〜6ヶ月程度持続します。
矯正用マウスピースとナイトガードの違い
| 項目 | 矯正用マウスピース | ナイトガード(歯ぎしり用) |
|---|---|---|
| 目的 | 歯を動かして歯並びを整える | 歯ぎしりから歯を守る |
| 素材 | 薄く柔軟なプラスチック | 厚みのある硬質または軟質プラスチック |
| 耐久性 | 比較的低い(約1〜2週間で交換) | 高い(半年〜数年使用可能) |
| 費用 | 自由診療(数十万円〜) | 保険適用(約5,000円・3割負担) |
| 歯ぎしりへの効果 | 軽度の保護効果あり(副次的効果) | 主目的として設計されている |
よくある質問
Q. 歯ぎしりがひどいと矯正の効果が出ませんか?
重度の歯ぎしりで想定外の力が加わると、歯の移動が計画通りに進まないことがあります。ただし軽度〜中程度であれば、定期的なチェックと適切な対処で矯正は問題なく進められるケースがほとんどです。担当医に正直に申告し、定期的な経過確認を受けることが重要です。
Q. 矯正を始めたら歯ぎしりがひどくなりました。どうすれば?
矯正治療の初期は噛み合わせが一時的に変化するため、歯ぎしりが増えることがあります。多くの場合は一時的なもので、噛み合わせが安定するにつれて落ち着きます。担当クリニックに報告し、必要に応じてナイトガードの追加や定期的な経過観察を行ってください。
Q. マウスピース矯正が終わったら歯ぎしりは治りますか?
残念ながら矯正で歯並び・噛み合わせを改善しても、歯ぎしりが根本から治るわけではありません。歯ぎしりの主な原因はストレスや睡眠の問題であり、歯並びとは別の要因です。矯正終了後も保定期間中はリテーナーを使用しますが、歯ぎしりが続く場合はナイトガードを継続使用することをお勧めします。
Q. 歯ぎしりがあると言ったら矯正を断られましたが、どうすれば?
重度の歯ぎしりがある場合、一部のクリニックでは矯正開始を断ることがあります。その場合は、先にナイトガードで歯ぎしりの程度を軽減させてから矯正を開始するか、歯ぎしりの重度な症例の対応経験が豊富な矯正専門医にセカンドオピニオンを求めることをお勧めします。
まとめ
① 歯ぎしりがあってもマウスピース矯正は可能です。「絶対にできない」ではなく、程度に応じた対処法を取ることが前提です。
② 軽度〜中程度の歯ぎしりなら、矯正用マウスピースが歯ぎしりから歯を守るナイトガードとして機能します。歯ぎしりがある方こそ、矯正を始めることで歯のすり減りリスクを同時に減らせる可能性があります。
③ 重度の歯ぎしりがある場合は、ナイトガードの併用やボトックス治療で歯ぎしりを軽減してから矯正を進めるアプローチがあります。
一番大切なのは、カウンセリングで歯ぎしりがあることを正直に申告することです。隠さずに伝えることで、担当医があなたの状態に合った最適な治療計画を立てられます。まずは無料カウンセリングで、歯ぎしりの状態も含めて相談してみてください。
参考文献
政府・公的機関
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「矯正装置」
- 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 臨床研究情報ポータルサイト「マウスピース型矯正装置と歯科矯正用アンカースクリューを併用した新しい矯正歯科治療法の開発」

